■欧州レポート■高い性能をもつ断熱モルタル

今回は、先月末に出張してきた欧州のレポートをお届けいたします。

今回の一番の目的は、断熱モルタルという全く新しい素材にあります。
断熱モルタルは、かなり昔からある様ですが、今回訪問してみてきたものはものが違います。

従来型の断熱モルタルは、熱伝導率が0.05~0.1W/(M・K)程度です。
これはどのくらいの性能かといえば、10Kのグラスウールよりもさらに悪いレベルです。
そのため、例え30mm塗り重ねたとしても、グラスウール10~15mm程度にしかなりません。
つまりは、モルタルだけで断熱性能は出すのは難しかったのです。

ところが、今回訪問してきた“FIXIT”社(スイス)の断熱モルタルは、
そのおよそ2倍以上の断熱性能を誇ります。

熱伝導率は、o.o28W/(m・k)と32Kのグラスウールよりも高性能です。
およそ、B種のウレタンにも匹敵する程の断熱性能を誇ります。
つまり、これであれば50mm程度塗り重ねられれば基礎断熱としては、十分な性能になるのです。

モルタルですので、火にももちろん強いですし、シロアリ対策にもなります。
スイスの寒冷地(-15度程度)でも十分に耐えますので、
凍結対策(さすがに真冬の施工はNG)にもなり、
それでいて断熱性はしっかりとあるというかなり画期的な代物です。

この商品は2015年の欧州建築界の環境大賞を受賞した商品なので、かねてから注目していました。
そして、今回の様に視察する機会がめぐってきたので喜んで行ってきたのです。

このモルタルは、上の写真のように吹き付けることで施工します。
ですので、作業は1人で大きな面積を一度に施工することが可能です。
もちろん均しの工程は必要ですから、それなりに技能は要りますが、
左官などに比べて長時間の研修は必要ありません。
モルタルの袋を機械に投入して所定の水を加えれば、工事がスタートできます。

弱点はもちろんあります。
最大の弱点は価格がまだ高いというものです。
これは、今後増産を始めると価格が大幅に低下する可能性がありますので、その点は期待が持てます。

その他にも、このモルタルは非常に軽く柔らかいので、
仕上げに堅い仕上げ材を施工しないといけないという欠点もあります。
叩いて崩れるということはありませんが、
雨などの作用が続くと単体ではもろくなる可能性があります。

そのため、仕上げに同じモルタル系でも堅い材料で仕上げをするように推奨されています。
実際に3年ほど経過した屋外の実験用壁を見せてもらいましたが、
仕上げ用の壁材であげている部分は色もきれいに残っていました。
このモルタルだけの壁も問題なく残っていましたが、
色の問題からもトップコートをかけることをメーカは推奨しています。

工場の場所は、スイスのチューリッヒから北に電車で約40分のところにある地元セメントメーカでした。
それまでもモルタル系仕上げ材、従来型の断熱モルタルなどを販売してきていますが、
主力商品は、セメントのようです。

今後は日本の建築研究所によって、実際の商品テストが行われる予定になっておりますので、
今後の実験結果なども随時ご報告していきたいと思っています。

その他にも、3カ所訪問しましたので、こちらもご報告しておきます。

次に訪問したのは、“M Sora”社です。
同社はスロベニアという東欧の国の首都から車で30分ほどのところにあります。
スロベニアは旧ユーゴスラビアに属していて、ユーゴの中でも一番イタリアに近いエリアです。
OECDに属しており、1人あたりのGDPは4万ドル近く。
1人あたりのGDPは日本と1割も変わりません。

日本でいえば、景色のきれいな地方都市という趣でしょうか。
南東北や北陸の中核都市という感じがしました。
同社の年商は30億円程度のようで、窓メーカとしては小さい部類です。

このMsora社が作っているものは、木製のトリプルサッシです。
樹脂製のトリプルは日本でも主流になりつつありますが、
木製というのはなかなかまだ普及していません。

日本国内にも製造メーカがある様ですが、ほとんど聞きません。
欧州では、木製トリプルは標準的につかわれています。
同社はその中にあって圧倒的に安価です。

今回は、その商品の説明と工場の見学、さらには施工事例を沢山見てきました。
上の写真のように、スロベニアのモダンな家は日本建築雑誌に登場しても違和感がないような、
木造のモダンな設計になっています。

特に、工場見学の前に見せていただいた完成した住宅のデザインレベルは非常に高く、
そのまま日本に持ってくれば、超高級住宅として建築雑誌にでも登場しそうな家でした。

工場も拝見してきましたが、包み隠すことなく全てをOPENにしてくれました。
木製サッシの工場は、木材をNCで正確に加工して、
それを正確に貼り合わせることで狂いを無くして、耐久性を持たせています。

従来品はアルミ部品をつかって強度を出していましたが、
最新の商品は極限まで金属部品を減らすか、
金属部品はあくまでカバーとして耐久性を増すために使用しているのが特徴です。

窓のU値としては、最高性能のもので0.6程度のものまで製造しています。
欧州の建築家は、デザインと性能の要求がとても高く、
常に高い性能とデザイン性の両立に取り組んでいる姿勢は好感が持てました。

この他の訪問は、ミラノで開かれていた万国博覧会(最終日の前日訪問)と
パリの事件現場から非常に近い、“MERCADIER”社のパリショールームにも訪れました。

ミラノの万国博覧会は、10月末で終了してしまいましたが、
食べ物をテーマにしたイタリアらしい万博になっていました。

ユニークだと思ったのは、
日本ではほとんど知られることの無い中東(オマーン、サウジ、イスラエルなどの各国)や
中央アジア(タジキスタン、ウズベキスタンなど)の出展がかなり多く見られたことです。
各国がかなりの費用をかけて、大きなパビリオンを出展していたのは印象的でした。

日本の地球博でもそうだったようですが、
イタリアでも会期の終わりが近づくと、どんどんと人が増えて、
5月頃はがらがらだった会場も、最終日の前日にはどのパビリオンも長蛇の列ができていました。

MERCADIER社は、フランスの塗料とカラーモルタルのメーカです。
塗料に関しても非常に発色の良いカラフルなものを取りそろえていますが、
発色の良いカラーモルタルは使い方によっては、
デザイン性に関しては特別大きな武器になる可能性があります。

このメーカは、まだ年商が5億円程度と小さいため、価格的には余り魅力はありませんが、
今後検討していく中で、店舗などデザインに特化した商品が出来ればと思っております。
今回登場した企業は、今後当社が取り扱う可能性もあります。
また、来年も視察ツアーを企画しますので、是非参加をご検討ください。 

(2015年11月21日)

Posted by 湊 洋一