夢の断熱材 セルロースファイバー
今日は、セルロースファイバーのお話をちょっと書いていきます。
自然素材を売りにしている工務店さんがよく使っている断熱材が、このセルロースファイバーという断熱材です。
どの断熱材もそうなのですが、良い点と悪い点があります。
昨日のグラスウールは、安い、手軽と言うのが良い点です。
そして、結露に極端に弱いというのが悪い点です。これは、施工がしっかりしていたらその点もカバーできます。
また、熱伝導率が高めなので、厚く入れないといけないというマイナス点もありますよね。
今日のテーマであるセルロースファイバーも、良い点も多いのですが悪い点も沢山あります。
それらを理解して使う分には良い断熱材だと思いますが、最高の断熱材だ!と言い切るのはちょっとね。
では、プロにしか解らない断熱材の世界に迫ってみたいと思います。
注意すべきは、僕はこの断熱材は基本的に良い物だと思っています。ただし、当社(MXエンジニアリング)は、この断熱材を扱っていません。理由は扱っても儲からないからなんです。
この断熱材は施工で利益を取るのですが今さら僕がこの施工を手がけなくても日本には沢山の施工者がいますので、当社としては別の断熱材を取り扱っています。もちろんネットワークの中には、この断熱材を扱っている業者もいますから、質問があれば何でも聞いて下さい。
セルロースファイバーとは?
これを見ていただいた方が早いですね。工業会のホームページです。
http://www.cellulosefiber.jp/toha/index.html
基本古新聞などの薄い古紙を再加工して、断熱材にしている物で、アメリカではかなり高いシェアを誇っている断熱材です。
◆セルロースファイバーの良い点
安心・エコな自然素材
一番の良い点は、自然素材であるということです。更に新聞紙のリサイクル製品ですからSDGs的に良いですよね。
アメリカなどはホームセンターにこれを吹き込む機械が置いてあって、小屋裏に自分で吹き込むことができるみたいです。今度行ったときに改めてホームセンターにも見に行きたいですね。
アメリカのホームセンターって、普通にライフルとかショットガンの銃本体と、その弾も売っているので面白いですよ。特にショットガンの弾はティッシュみたいに売り出しやっています。
そんなことはさておき、それだけ身近な存在なので安心だという点も良い点ですね。素人でも取り扱いが可能です。
優れた防音性
更に、繊維が細かい上にサイズがランダムなのでいろんな音を吸収します。つまり、防音性に優れています。
紙だけど燃えにくい
また、紙ですがホウ酸処理をしているので、燃えにくい性質になっています。『セルロースファイバー、防火』でググると沢山の画像が出てきますね。
吸湿性・調湿性
最後に、この断熱材で良く唱われているのが、吸湿性・調湿性です。つまり、セルロースファイバーを壁の中に入れると断熱材が吸湿してくれるということですね。実はこれは後述しますが、大きな弱点になっています。
そのため、セルロースファイバーを売っている人々は、以前は吸湿性を売りにしていたのですけども、最近では「湿度を通す」という表現を使うようになりました。
セルロースファイバーの悪い点
コストが高い・自社施工のハードルも高い
一番の悪い点は、経済性です。施工をしないといけない、技能が要るとなると当然ですが価格が高くなります。
当社もその昔見積もりを取ったことがありますが、壁平米で2500~3000円ぐらいします。つまり35坪ぐらいの住宅だと100万円以上かかるというわけです。そのため採用を見送る工務店が多いですね。
これを自社で生産して、自社で施工すると安くなるとおっしゃる方がいます。実際にやられている方とお話したこともあります。
これはこれでマスナスを消すいい試みだと思います。ただ、初期投資が高いということで、なかなか広がらないのは問題です。あとは生産現場毎に認定を取る必要がありますので、なかなか大変です。
価格が高いのがネックだとして、性能も高いと良いのですが、熱伝導率は精々グラスウールと同じぐらい。でもコストは壁平米あたりで2~4倍グラスウールに比べて高くなります。
密度の問題
もう一つ、よく出てくるマイナス点が沈下ですね。
機械で下から詰めていくのですが、詰めが甘いと時間が経つと沈んでいくのではないかといわれています。
そのため、パンパンになるまで詰めるわけですが、それには技術が必要です。
また、壁ぴったりには詰められないので、3寸5部(105ミリ)の柱にちょうどぴったりは入れられません。
よく、40キログラムとか、60キログラムとかいうのはそれだけ密度高く詰めていると言うことをいうために使う単位です。今は、標準的に60キロ詰めることが多いんじゃないでしょうか。これで、ある程度沈下は防げるということです。
吸湿させた時に断熱性能が下がる
そして、どこのホームページを見ても書いていないのが、吸湿させた時に断熱性能が下がるという点ですね。
ドイツのフランホッファー国立建築研究所が出しているWUFIというソフトがあって、そこには様々な物質特性が載っていますが、代表的なセルロースファイバーとグラスウールの断熱性能と湿度依存の関係を載せておきます。
どんな断熱材も湿度特性はあります。
上(左)がグラスウールで、下(右)がセルロースファイバーです。どちらも繊維系断熱材なので似たような特性ですね。
これを見ると、このデータが正しければ吸湿させればさせるほど断熱性能が落ちていくことが解ると思います。このグラフでは値が大きくなればなるほど、熱を通しやすくなる=断熱性能が落ちる事になります。
次に平衡含水率を比べてみます。
平衡含水率というのは、一定の温度や湿度の空気中において、材質の水分量が雰囲気中に平衡に達したときにおける含水率のことです。
つまり、その物質の長期間保存した時の水分量がわかるものです。
上(左)がグラスウール、下(右)がセルロースファイバーですが、グラスウールは硝子からできているので周りの雰囲気が上がっても含水率は増えません。
それに対してセルロースファイバーは周りの雰囲気の湿度が高くなってくると含水率が上がってくる事を示しています。
こうなると、上の吸湿と断熱性能の特性のグラフのように熱伝導率が下がっていくというわけですね。
もちろん、これらのデータはドイツのフランホッファー国立研究所が出しているデータで、日本で市販されているセルロースファイバーの数値ではないということはご理解ください。
つまり結論から言えば、セルロースファイバーは高いぶんとても特徴があって良い断熱材ですが、吸湿させると熱伝導率は下がるということになるわけです。
それにしてもとても微妙な差ですから、気にするほどではないかもしれません。何れにしても我々プロはこれだけ微妙な差を気にしているわけです。
今日は凄くマニアックなブログになってしまいました。(^_^;
追記(2022年2月)
北海道の研究機関によって、セルロースファイバーは吸湿させると沈降するという特性があるみたいですね。
吹込み用繊維質断熱材の長期断熱性能の研究 – YouTube
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